1.書字表出障害(ディスグラフィア)
書字表出障害(ディスグラフィア)は
知的には発達の遅れが見られないのに
文字が書けなかったり
書くことが苦手だったりする障害です。
症状としては
・書き文字がマスや行から大きくはみ出してしまう
・文字を書くときに鏡文字を書く
※ただし、鏡文字は幼少期の発達段階で
誰にでも起こりうるものなので
必ずしもディスグラフィアの症状とは言えません
・年相応の漢字を書くことができない
・文字を書く際に余分に線や点を書いてしまう
・間違った助詞を使ってしまう
・句読点などを忘れる
などです。
これらは勉強が苦手だったり
嫌いだったりして
学習に取り組むことを怠った結果と
みなされることが多いです。
だからある程度成長しても
障害があると認識されないことが多いです。
通常は読み書きの問題は
セットになっていることが多く
前回の記事のように
読みの問題にのみ
特化していることは少ないです。
読み能力だけでなく
書字能力にも問題があることが
よくあるということです。
そして日本の場合
ひらがな・カタカナ・漢字の3種類あり
英語の学習も加わると
この読み書きの障害は
国際的にも高い数字になると言われています。
2.Mについて
Mの症状について
以前の記事でADHD(注意欠如多動性障害)の
生徒とのかかわりについて書きました。
2人の生徒について書きましたが
一人はADHDは軽度でした。
軽度の方の生徒はMと言います。
今回はこのMについてです。
Mは文章を書くことに苦手意識があるので
毎日書くことになっていた記録を
続けて書いてくることができませんでした。
書いた文章を見ても
短く簡単な文章しか書かず
句読点はほとんどありません。
また助詞を間違えて書くことは
日常茶飯事でした。
また線があっても
真っ直ぐに字を書くことができませんでした
漢字をなかなか覚えて
書くことができませんでした。
彼は毎年漢字検定に挑戦しましたが
8級の壁を越えることができませんでした。。
そんなMでしたが
漢字が入った文章もすらすら読むし
話す言葉は全く障害を感じさせないし
むしろ高度なことを話題にすることができました。
たとえば社会情勢を話題にして
自分の考えを言うことができました。
社会科の授業でも
「なぜ」と尋ねる難しい質問に答えるのは
たいていMでした。
Mの保護者の願い
入学式の日の学級びらきで
Mのお母さんが
「願うのはただ一つで
ちゃんとした文章が書けるようになってほしい。」
と言いました。
私はその時には
書字表出障害(ディスグラフィア)については
ほとんど知りませんでした。
Mは不登校で
小学校からほとんど登校していないので
勉強が足りないだけなので
教えればすぐに書けるようになると思ったので
その時私はお母さんに自信たっぷりに
「大丈夫です。鍛えますから。」
と言いました。
3.知らないことの罪
それから3年間
たくさん文章を書かせて
指導したり
漢字の勉強をさせたりしましたが
ほんの少し向上しただけでした。
高3も半ばを過ぎても
相変わらずMは書くことが嫌いで
毎日の記録は
全くと言っていいほど書かなくなり
漢字検定の勉強も
しなくなりました。
相変わらず書く文章は小学校の
3年生くらいの感じでした。
書くことに
さらにコンプレックスをもったようでした。
ただ家族のことや環境問題についてなど
自分の好きなことに関しては
誤字や脱字
文法的なミスの沢山ある文章でしたが
自分の考えや思いを
文章にしようとする意識は
高まっていったと思います。
そんな状態とは裏腹に
その他の能力は驚くほど伸びて
沢山の知識を吸収し
普通の高校生としても
通用するくらいにまで成長しました。
そんなアンバランスさを目の当たりにしながらも
Mを担任した今年の3月までの3年間
私はMが書くことに障害があるとは
全くわかっていませんでした。
最後まで不登校による勉強不足と
彼の怠惰でいい加減な姿勢と
集中力の欠如のせいで
書く力が付かなかったという
自分の判断を疑ったことはありませんでした。
Mに対しても
いつも怠惰さといい加減さと
集中して取り組まないことを
叱責していました。
怠惰さといい加減さの奥にある
「どうしても書けない。」という
彼の自分自身に対する混乱に
全く気付いていませんでした。
4.書字表出障害(ディスグラフィア)の指導
では私はMを
どのように指導すれば
よかったのでしょう。
私が最も後悔することは
Mの書くこと嫌いを強化してしまったことです。
高校生になって意欲に満ちていた時に
正しい文章を書かせることにこだわらず
書くことを好きにさせることが大切でした。
そして同じディスグラフィアという障害であっても
一人一人違うので
なぜ書くことが苦手なのかということを
観察や分析を通してそれをつかみ
適切な指導をすべきでした。
場合によっては
病院や療育機関の検査を利用して
調べてみることも必要だったかもしれません。
Mのディスグラフィアの原因と指導
Mのに関しては
一つの大きな原因として
短期記憶が苦手というのがあげられます。
この記事を書くまで
私はこのことが
書くことの困難さにつながっていると
考えたことはありませんでした。
考えたことをその場で
言葉にすることはできても
それを情報として
脳に記憶することが苦手なので
まとまった文章にするのが困難になります。
彼自身も
自分の考えたことが
文章にできないもどかしさを感じる
大きな原因は
このことにありました。
それに対しては
文章にする前に
思いついたことを全て
メモのように書く習慣を付けさせ
それをつなげていく方法を
指導するという方法があります。
メモはどんなふうに書かれていてもよく
最終的に正しい文章に
できるようにすればいいです。
文字の形を正しく捉えたり
位置や方向を理解したりする力も
書字のベースとなる大事な力です。
何らかの原因によって
目で捉えた映像を
脳で正しく認識することができないために
文字の部品の配置や線の数
線の向きなどが正しく捉えにくい場合があります。
そのことが
ひらがなや漢字の書き間違い
(鏡文字や似たような文字との間違いなど)や
漢字をなかなか覚えられないこと
につながっているケースがあります。
彼が助詞が正しく使えなかったり
漢字を覚えることが苦手なのも
この目で捉えた映像を
字を書くという行為にの時にのみ
うまく処理できていなかったためかもしれません。
それに対しては
さまざまなトレーニング方法があるし
ソフトも開発されているようです。
ビジョントレーニングも活用できるようです。
5.私にできること
今回のディスグラフィアも
障害について理解し適切な指導をすれば
症状が改善されたり
自分に合ったやり方で
自分で補うことができるようになったり
必要な支援を要求することが
できるようになったりすることが
わかりました。
私はMの状況を
ディスグラフィアと捉えていなかったために
適切な指導をすることが
できていませんでした。
書く力を付けさせることなく
彼を社会に出してしまいました。
彼の思いにも彼の母の思いにも
応えることができませんでした。
この記事を書かなかったら
それは彼の責任だと考えたまま
そのことにずっと
気付くことはなかったでしょう。
また
それまでの中学校の教師の時に出会っていた
学習に困難を抱えていた生徒たちの中にも
「知る」ことで相手をより深く理解することができ
適切な支援ができることを
身をもって知ることができました。
今回それに気付くことができ
それによって多くのことを学ぶ機会を得ました。
これからも多くの人とかかわったり
多くの知識や情報を得たりすることで
もっともっと
学んでいきたいです。
こうして学んだことの全てを
問題を抱えた多くの人たちのために
生かしていきたいです。


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